「人と一緒にビジネスを育てる」「人の先に新たなビジネスがある」 技術を誇るコスモリサーチの哲学

JAXA、NHK、NICTなどにも製品を提供するコスモリサーチは、社員20名(うち18名がエンジニア)。大企業じゃないから面白い仕事ができるという伊藤社長に、製品開発とものづくりで大きな成果を上げ、エンジニアとして成長を続けることについて話を伺った。 コスモリサーチ株式会社: コスモリサーチは、無線通信機器、高速信号処理機器の開発製造を主な事業とする会社。1988年の創業以来、エンジニアを育て、果敢に開発にチャレンジする姿勢を貫いてきた。常に先端の技術を先行開発、世に問うことにより、新たなビジネスを切り開いている。

コスモリサーチ(株)代表取締役 伊藤 武司

20名の社員のうち18名がエンジニア。常に開発の最先端に

――まず、コスモリサーチについてお聞かせください。主力事業は何でしょうか?

コスモリサーチは、無線通信機器、高速信号処理機器などを開発、製造する会社です。製品ラインにより、自社ブランドと顧客企業との共同開発の二つの事業モデルがあります。例えば、マラソン中継を途切れず安定した放送にするための 「マクロダイバーシティ受信機」は自社ブランドでNHKに納品しています。また、防衛省向けの航空管制用無線機などは、出荷量も多く、メンテナンスに多くの人員が必要となるため、大手企業と協業する事業モデルです。

――会社の成り立ちを教えてください。

2020年4月に創業32年を迎えました。私は大手電機メーカーのグループ会社で防衛庁(当時)向けの通信機器を開発していました。良くいえば意欲的な、でも上から見れば生意気な若造でした(汗)上司との折り合いも悪く(笑)、えいっと独立したのは1988年、32歳のときです。独立直後は、当時立ち上がりつつあった「LSI(集積回路)」の受託開発ビジネスを手掛け、その後「FPGA(フィールドで機能を書き換え可能なLSI)」をコアとした製品開発に移行していきました。

FPGAを採用することにより、劇的に進化したVLBI用高速サンプラ「ADS3000」は、VLBI観測機器のデファクトスタンダードになり、最近では、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」の位置測定にも使われています。

――コスモリサーチの強みはどこにあると思われますか?

常に、新しい技術を先行開発し、新しいビジネスを模索していくところです。

例えば、FPGA。今では学生でも使っていますが、1990年代当時の技術者には使いこなすのが難しく「使えないデバイスだ」という声もありました。ですが、われわれはLSI設計で培った知見をもとに、製品開発の中に取り込むことができました。

昔話になりますが、高速サンプラADS3000の前身として、電波天文用の相関器があります。遠い星からの電波を複数のアンテナで受信し、到達時間差をハードウエア演算で測る装置でした。まだ評価の定まらなかったFPGAを用いて、 大手企業製の従来機に比べて圧倒的な性能と費用対効果を武器に、国のコンペで競り勝つことができました。

当時、私は38歳で社員はたった6名。国の研究所が発注する研究用機器は大企業が受託して当たり前の時代のことです。その常識を打ち破ることができたのも、果敢に新しい技術を取り入れ、モノにする姿勢に、先端好きな研究者たちの共感をいただいた結果です。

入札に勝った後、当時の通信総合研究所の研究部長に呼ばれて「君のところで、本当にできるのか?」と聞かれて、思わず「は、はい…お、おまかせください」と口ごもったことを覚えています。

そんなスタイルは今でも変わりません。今でこそ、社員20名を抱えるようになり、大手と協業というビジネスも増えていますが、その一方で、大手とガチで競合することも多く、大手のマーケットを荒らす存在として嫌われています。

若手のエンジニアにもこんな血統は受け継がれており、なにより、設計だけでなく、提案、コンペなどビジネスを立ち上げるスキルが鍛えられます。

とはいえ創業32年、技術力だけでなく経営面でも評価をいただいており、さいたま市リーディングエッジ企業の認証もいただいています。

20代の経験が将来の糧に。成長できない仕事はするな!

――エンジニアの育成に力を入れているということですが、エンジニアが技術力を高めるためには、どんなことに気をつけるべきでしょうか?

成長できる環境が大事ですね。初めての会社選びですから知名度がある企業に目が行きがちなのは仕方ないところですが、 自分が育つための仕事ができるかよく吟味しましょう。

他の業界と同様、電子機器の業界においても、まずは大企業が仕事を受託することが多いのが現状です。そこから細分化された仕事が二次請け三次請けになどに振り分けられます。IT業界で問題視される多重下請けと同じ構造ですね。

まず、システム設計など上位の付加価値が高い部分は、大手企業の子会社などが手掛けることが多いようです。大手は営業と交通整理しかしない(笑)。で、二次請けではユニットレベルの設計とか、ソフトの設計とか。三次請けあたりになると、ソフトウエアの評価だけとか、製品のテストだけといった仕事もあるわけです。

例えば、ゲーム機メーカーの仕事で、ずっとゲームをして不具合を探すような仕事もあります。ゲームが好きなら楽しいかもしれませんが、ソフトウエア開発の技術が身につくはずもありません。

――なるほど。では、開発の上流である大企業への就職を目指すべきなのでしょうか?

それは、人それぞれの考え方次第ですね。

大企業の社員がみなデキる技術者に育つかと言えば、そんなことはないです。大企業の場合、まず配属の壁が存在します。どんな職場に配属されるかは、くじ引きみたいなもの。

工学部を出れば、技術系の仕事をしたいと考えるのは自然ですが、技術者の仕事もいろいろです。生産設備のオペレータや、メンテナンスなども技術者の仕事ですし、昔ながらの製品の担当になれば、新しい技術には無縁になるかもしれません。

大手企業といえども、ジョブローテーションはあまり行われないのが現実です。配属部署で一つ仕事を教えたら、そのまま使うほうが経営としては効率的。いつしか、縦割り組織で一つの仕事しかできない人になり、そのスキルも時の流れと共に古くなります。気が付いたら「使えないおじさん」になっているかもしれません。

このところ、黒字でも40代の社員のリストラを敢行する企業が話題になっていますが、実は、このあたりに原因があります。企業も、時代と共にビジネスモデルが変化し、必要とする人材も変化します。40過ぎて時代遅れになったおじさんより、皆さんのような新しい技術を勉強してきた若手を採用したほうが良いわけです。

企業も人も、時代に応じて変わっていかなければならないのですが、人は変わっていなかったってこと。「そんなぁ。」と言っても後の祭り、会社なんて冷たいものです。若い人だって明日は我が身ですよ。エンジニアも自分なりのキャリアプランをもって、日々成長していくことが大切なのです。

――たしかに「大企業に入って一生安泰」という時代ではないですよね。成長できるエンジニアには、どの年代でも目指せるものでしょうか?

エンジニアとして成長を続けるためには、20代での経験がとても大切です。20代の経験が、30代のキャリア構築の基礎になります。それには、 良質なプロジェクトにかかわること。先に述べたような、成長の見込めない仕事をして30歳を過ぎてしまうと、20代でしっかりキャリアを積んだ人にキャッチアップすることはまず不可能です。

良質なプロジェクトとは、技術的なレベルが高く、新人でも全体を見渡せるようなプロジェクトですかね。デスマーチなどと揶揄(やゆ)される炎上プロジェクトなどは論外です。

会社の規模ではなく、そこで、自分が何を学べるかを考えて欲しい

マクロダイバーシティ受信機

――20代での進路が大事ということですね。自分が成長できる仕事をするためには、どんな会社選びをしたらいいと思いますか?

電子機器の開発者としてキャリアを積んでいきたいと思うなら、会社の規模ではなく、しっかりした技術を持って、メーカーとして機能している会社を選んでほしいと思います。

企業の目的は利益を得ることなのですが、それだけでは寂しいですよね。しっかり人を育てることも大切です。最近の成長企業には、ビジネスモデルやアイデアで稼ぐ企業が多くあります。ネット通販とか、ネット配車、ネットレンタルオフィスなどなど。そういった企業の社員が皆幸せかといえば、違うのではないでしょうか。私がお勧めしない、SES企業でも、私たちよりはるかに大きい企業はいくらでもあります。投資家や株主の満足度と社員の満足度は、別物なのです。

メーカーで、製品開発から製造、フィールドでの運用まで目配りすることにより、エンジニアとしての力がつきます。こういった知見は、技術のはやりすたりに関係なく、ビジネスのフィールドに行っても役に立つベースになります。

また、力のあるメーカーには技術の蓄積があります。ソフトウエアなどは、簡単にコピーできたりしますが、10年、20年と積み上げてきたものづくりの技術はそう簡単にまねできません。まあ、そういった会社をお金で買うという風潮もありますが、悲しいことですね。でも、技術やノウハウは人の中に残るもの。会社がどうなろうと自分の体に染み込んだ技術は一生の財産です。

――ものづくりをすることで、会社にも、個々のエンジニアにもいい循環が生まれるんですね。コスモリサーチではそのような仕事ができますか?

われわれのエンジニアはメーカーとして先行開発から、顧客の獲得、製品の企画、開発、製造そして、フィールドでの運用まで一連のプロセスを見渡すことができます。このプロセスは、スタートアップの起業に似ています。また大企業とはスピード感が違います。そんなところに価値を見いだすエンジニアが集まっていますね。

――実際に入社すると、どのようなキャリアパスが描けますか?

入社後は「アシスタントエンジニア」として数年、先輩について技術を習得していきます。これは、インターンだと思ってもらってもかまいません。もちろん、世間並み以上のお給料はもらえます。ある程度、仕事が閉じられるようになると「エンジニア」に昇格します。アシスタントを束ねて、プロジェクトを主導します。実際、28歳~30歳代前半くらいのエンジニアが開発を仕切っています。さらに経験を積むと「チーフエンジニア」となり、規模の大きなプロジェクトや難易度の高いプロジェクトを担当することになります。

その先には、マネジメント層、役員、さらに社長までのチャンスがあります。力のある人に報いる人事制度が用意されています。

――入社1年目の仕事について、具体的に教えてください。

プロジェクトの状況にもよりますが、まず、製品の評価検証で測定器やツール類の使い方を覚え、回路設計、FPGA設計、ソフト設計へと進んでいきます。独自の目標管理制度で、1年ごとに目標を立てスキルを習得していきます。例えば、「FPGAの設計手法を習得する」とか、「先輩の世話にならずに基板を設計できるようになる」といった具合で、達成度は、賞与にも少しだけ反映されます。

コスモリサーチでは、ソフトからハードまで一通りの経験をさせ、そのなかのいくつかを得意技とするように指導しますので、幅広い視野を持つことができ、マネジメント層へ進んだ時、目利き力が大いに役にたちます。

変わり続けるこれからの30年を見据えて

設計レビューもOJTの一環

――コスモリサーチでは、どんな人材を求めていますか?

コスモリサーチでは、「開発エンジニア」ではなく、「開発エンジニアになりたい人」を採用しています。皆さん新人なので、現在の技術的スキルは問いません。素養が大切。工学的なものの考え方ができる人。論理的にものを考えられる人。時として、とんでもないことを思いつく人もいいですね。でも、一番大切な事は、この記事を読んで共感してもらえることでしょうか。

毎年、苦労して採用活動をしていますが、共感できる人って一定程度いるものです。そうして入社した人たちが育ち、いま会社を仕切っています。最近の新人の定着率は、6年で7割くらい。価値観を共有できない人はいずれ挫折します。

――エンジニア育成への想いを教えてください。

コスモリサーチは、2020年の今現在、無線通信機器、高速信号処理機器の開発製造をメインの事業としています。でも、創業当時は、LSIの受託設計会社でした。そして、FPGAを使うようになって……と長々と昔話をしましたが、会社も、人も、世の中に合わせて変わっていくべきです。

コスモリサーチでは将来性のある技術を先行開発、しつこいね(笑)、することから始まるビジネスサイクルを回すことにより、成長してきました。こういったサイクルを回していけば、40歳リストラ問題などとは無縁です。そして、このサイクルの入り口には、優秀な若手エンジニアの力が必要なわけです。

私もかつて大企業で、おおいに窮屈な思いをしてきました。今経営者の立場で言えば、大企業で組織の論理が優先するのは致し方ないところ、個人の話を聞いていてはキリがありません。一方、コスモリサーチは自信をもって大企業ではありません。 人を育てた先に、会社の成長がある、そんな考え方が成立します。

――最後に、理系就活生へ向けてメッセージをお願いします。

コスモリサーチは創業32年目を迎え、これからの時代を託せる人を求めています。時代は変化し続けますが、時代に合わせて自らビジネスを立ち上げる、そんな仕事を楽しめるような方であれば、コスモリサーチと共に成長できます。まずは、気軽に会社訪問してください。

編集後記

エンジニアの現場を見続けてきた伊藤氏ならではの、興味深いお話だった。ものづくりの楽しさは、企業の大きさとは関係ない。エンジニアを大切にし、先端技術を製品に落とし込む開発力があることは、変動する時代において有利に働くはずだ。

エンジニアの育成に力を入れるコスモリサーチでなら、クリエイティブな環境で自らのスキルを成長させることができるだろう。ぜひ一度、会社訪問してみてはいかがだろうか。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

TOP
TOP